
目次
1. おひとりさまが抱える死後の手続きとは

1.1 増えるおひとりさまの背景と課題
近年、「おひとりさま」と呼ばれる人が増えています。
単身世帯の増加や未婚率の上昇、配偶者や家族との別居などが背景にあります。
総務省のデータでは、単身世帯の割合は全世帯の約40%を超え、今後も増加傾向です。
こうした中で問題となるのが、自分の死後に必要な手続きを「誰が」「どう進めるか」という点です。
家族に頼れない場合、死後の手続きが放置されるリスクが高まります。
たとえば以下のような課題が浮上します:
- 死亡届を誰が提出するのか
- 葬儀や火葬の手配をする人がいない
- 銀行や公共料金の解約が進まない
- 賃貸住宅や施設から遺品を撤去できない
これらはすべて、本人が亡くなった後に必要な重要な作業です。
準備がなければ、行政が対応に乗り出すまで時間がかかり、賃貸住宅の原状回復や家財整理なども滞ります。
1.2 死後に必要な主な手続き一覧
死後に必要な手続きは意外と多岐にわたります。
代表的なものをまとめると、以下のようになります:
- 死亡届の提出と火葬許可の取得
- 葬儀や火葬、納骨の手配
- 年金・健康保険・税務署への届け出
- 銀行口座の凍結と解約
- 公共料金・サブスク等の契約解除
- 住居・施設の原状回復や退去
- 遺品整理と家財の処分
- デジタル遺品(SNSやネットサービス)の対応
これらの手続きには期限があるものも多く、迅速に対応しないと後の処理が複雑になります。
たとえば、死亡届は7日以内に提出しないといけませんし、年金の停止手続きが遅れると返還請求の対象になることもあります。
1.3 身寄りがいない場合に起こる問題とは
おひとりさまの場合、家族や親戚が近くにいない、あるいは疎遠になっているケースも珍しくありません。
そんなときに起こりがちなのが、次のような問題です。
- 葬儀や火葬が進まない
死亡後、誰も遺体を引き取らず、自治体が対応するまでに時間がかかるケースがあります。 - 住まいの原状回復が遅れる
借家に住んでいた場合、家主が困るケースが多く、近隣トラブルに発展することも。 - デジタル遺品の放置
SNSやメール、オンライン口座などがそのままになり、個人情報漏洩のリスクが高まります。
忙しい日常では「まだ先のこと」と後回しにしがちですが、事前に準備をしておくことで大きなトラブルを防げます。
2. おひとりさまが死後の手続きを自分で準備する方法

2.1 エンディングノートと遺言書の違い
おひとりさまの終活で、まず手をつけやすいのが「エンディングノート」。
自分の希望や気持ちを自由に書けるツールとして、準備の第一歩に最適です。
一方で、「財産をどう分けるか」など法的に効力のある意思表示は「遺言書」でないとできません。
この2つの違いを理解せずに終活を始めてしまうと、後で大きなトラブルを招くこともあります。
よくある失敗例と注意点
- エンディングノートに遺産分配を書いてしまう
→エンディングノートには法的効力がないため、実際の遺産分配には無効です。 - 遺言書を自己流で書いてしまい形式不備になる
→民法に沿った形式(自筆証書、公正証書など)でなければ無効になる可能性大。 - エンディングノートを誰にも伝えず保管してしまう
→発見されなければ何の役にも立ちません。信頼できる人や専門家に知らせましょう。
解決策とポイント
- エンディングノートには気持ち・希望・人間関係・デジタル情報などを記入
- 財産や相続については、必ず遺言書を作成
- 遺言書は公正証書遺言を選べば安心感が高く、紛失・改ざんリスクもありません
自分の思いを伝えるツールとしてはエンディングノートを、正式な手続きには遺言書を使い分けるのがポイントです。
2.2 任意後見契約と死後事務委任契約の活用
おひとりさまの死後準備で非常に重要なのが、契約による他者への委任です。
「任意後見契約」は生前、「死後事務委任契約」は亡くなった後のサポートを想定しています。
この2つをセットで活用すれば、認知症や突然の病気で判断力を失ったときから死後までの手続きを一貫して任せられます。
契約の概要と違い
契約名 | 目的 | 対応範囲 | 契約の特徴 |
任意後見契約 | 判断力が低下したときの支援・代行 | 生前 | 判断力のあるうちに締結。家庭裁判所の監督付き |
死後事務委任契約 | 死後に発生する手続きを第三者に依頼する | 死後 | 死亡後に効力が発生。内容を明確に記載する必要あり |
起こりやすいトラブルと対処法
- ① 委任内容が不明確で、誰も動けなかった
→葬儀・納骨・賃貸解約・SNS解約など、具体的な業務を契約書に明記することが重要です。 - ② 契約者の信頼性が不十分だった
→知人に頼んで後悔するケースも。信頼できる専門職後見人(司法書士など)を選ぶと安心です。 - ③ 費用を準備しておらず手続きが滞った
→手続き費用や預託金の準備を怠ると、実行段階でトラブルに発展します。
安心して契約するための工夫
- 事前に複数の専門家と相談し、見積もりや業務範囲を比較する
- 公正証書で契約を結び、法的にも第三者にもわかる形で残す
- 家族がいない場合、契約内容と保管先を関係者に通知しておく
一人で抱えるには大きな負担でも、契約を活用すれば“死後も安心”が現実になります。
2.3 手続き漏れを防ぐ3つのチェックポイント
死後の手続きは多岐にわたり、放っておくと大切な財産や契約が宙に浮いてしまいます。
そんな手続き漏れを防ぐには、次の3つがカギになります。
① 重要手続きの優先順位を整理しておく
死亡直後に必要な手続きは以下のように分けられます:
- すぐに必要:死亡届、火葬手続き、年金停止、医療費清算
- 数日以内に必要:銀行凍結、公共料金の停止、施設退去
- 数週間後で良い:遺品整理、契約解約、SNS削除など
タスクごとに期限を明記したチェックリストを作っておくとスムーズです。
② 担当者・委任先を明確にする
誰に何を頼むかが曖昧だと、誰も動けず混乱します。
たとえば…
- Aさんには葬儀の手配
- Bさんには遺品整理の立ち会い
- 死後事務委任契約の代理人には行政手続きや解約業務
契約に基づいて役割を明記し、本人が元気なうちに共有することが大事です。
③ 書類や情報の保管と共有
準備したエンディングノートや契約書が見つからなければ、何も始まりません。
- 書類は鍵付きの保管箱や信託サービスに預ける
- 内容と保管先は親しい人または専門家に伝えておく
- デジタル情報(パスワードやID)は別紙に記載・暗号化して管理
「整理したつもり」で終わらせず、確実に伝わる体制まで整えることが安心のカギです。
3. 死後事務委任契約の具体的な内容と流れ

3.1 委任できる主な死後の手続き
死後事務委任契約は、「自分の死後にやるべきことを、あらかじめ信頼できる人にお願いする」ための契約です。
おひとりさまの場合、これがあると死後の手続きがスムーズに進みやすくなります。
具体的に委任できる主な内容は以下の通りです:
- 遺体の引き取りと搬送手続き
- 火葬・葬儀・納骨の手配
- 死亡届などの行政手続き
- 賃貸住宅や老人ホームの退去手続き
- 光熱費・携帯・サブスクなどの契約解約
- 銀行口座・カードの停止と清算
- 遺品整理・不用品の処分
- SNSやクラウドの削除(デジタル遺品の対応)
- ペットの引き継ぎ手配(必要な場合)
これらの作業はご家族がいても負担が大きい内容ですが、おひとりさまの場合は特に重要です。
対応が遅れると、家賃が延々と発生したり、個人情報が流出するなどのリスクもあります。
3.2 契約の進め方と必要な書類
死後事務委任契約は、信頼できる個人や法人と正式な契約を結ぶことで有効になります。
その際は、公正証書で作成することが一般的かつ確実です。
手続きの流れは次のとおりです:
- 契約相手を決める(個人・法人など)
- 契約内容を詳細に決める(委任範囲・費用・対応方法など)
- 公証人役場で公正証書を作成
- 必要書類や連絡先を共有しておく
準備すべき書類は以下のようなものがあります:
- 本人確認書類(免許証、保険証など)
- 実印と印鑑証明書
- 委任内容の詳細メモや希望
- 契約相手の連絡先情報
注意点としては、契約相手がきちんと責任を果たしてくれる体制にあるか、費用や対応条件を明確にしておく必要があります。
公正証書で残しておけば、法的にも信頼性が高く、第三者にも確認してもらいやすくなります。
3.3 費用相場と金額の内訳
死後事務委任契約にかかる費用は、契約の範囲や委任する相手によって大きく異なります。
ただし、一般的な相場としては10万円〜50万円程度が多いようです。
費用の内訳は次のようになります:
- 契約手数料(公正証書作成含む):3万〜10万円
- 死後の実務対応費(各種手続き・搬送など):10万〜30万円
- 葬儀・火葬・納骨などの実費:20万〜50万円前後
- 予備費・預託金:数万円〜
注意点としては、契約内容によっては追加費用が発生することもあります。
特に遺品整理や家財処分などは、部屋の広さや荷物の量によって費用が大きく変動します。
こんなトラブルもあります:
- ①予算を低く見積もってしまい、実際に葬儀費用が足りなかった
- ②費用の内訳が不明確で、後から追加請求された
- ③支払い方法を明確にしておらず、スムーズに手続きが進まなかった
費用は必ず事前に見積もりを出してもらい、契約内容に明記しておくと安心です。
4. おひとりさまの死後手続きで起こりやすい失敗と対策
4.1 契約者が信頼できない場合のリスク
死後事務委任契約は、信頼できる相手に依頼することが前提です。
しかし、契約相手の選び方を誤ると、トラブルに発展することもあります。
よくあるリスクは以下の通りです:
- 実際には業務を遂行せず、放置された
- 連絡が取れなくなり、手続きが止まった
- 費用を支払ったのに業務が履行されなかった
「知人だから」「昔からの付き合いがあるから」といった理由だけで契約すると、後悔することになりかねません。
対策としては、以下のポイントを意識しましょう:
- 契約前に実績や体制を確認する
- できれば法人や専門家(司法書士など)と契約する
- 第三者に契約の存在を知らせておく
信頼関係だけでなく、客観的に確認できる契約書の内容や実績が重要です。
4.2 契約内容が曖昧なまま進めてしまうミス
契約書の内容が抽象的すぎると、実際の対応時に「これは契約に含まれていなかった」とトラブルになることがあります。
たとえばこんな失敗が多いです:
- ①「遺品整理」としか書かれておらず、貴重品の扱いで揉めた
- ②「納骨」の範囲が不明確で、無縁仏として扱われてしまった
- ③「契約解約」がどこまで対応範囲か曖昧だった
このような事態を避けるには、次のような工夫が必要です:
- 手続きごとに内容を細かく明記する
例:「公共料金の契約解約(電気・ガス・水道・携帯)まで含む」 - 優先順位をつけて依頼事項を整理する
- 「やらないこと」も明確に記載する
細かすぎると思えるくらいの記述が、後のトラブルを防ぐポイントです。
4.3 デジタル遺品の放置によるトラブル
現代では、パソコンやスマートフォンに膨大な情報が保存されています。
SNS、ネット銀行、写真データ、クラウドサービス…。これらを「デジタル遺品」と呼びます。
問題は、これらの存在を誰も知らず、放置されたままになることです。
こんなリスクが発生します:
- SNSが数年放置され、本人の死を知らないまま更新が続く
- クラウド内に財産データが残っていたのに、アクセスできなかった
- サブスクや有料サービスの課金が続いていた
対策としては、以下のような準備をおすすめします:
- 主要なID・パスワードをエンディングノートに記載
- 使っているサービス一覧を定期的に整理
- 信頼できる人にアクセス情報を伝える手段を決めておく
デジタル遺品も、物理的な遺品と同じように「遺す」「整理する」視点が必要です。
5. おひとりさまが死後の手続きを安心して任せるための準備法
5.1 死後の準備を始めるベストなタイミング
「終活」と聞くと、年配の方のイメージがあるかもしれません。
でも実は、元気なうちに始めるのがベストタイミングです。
なぜなら、準備には時間がかかるうえに、判断力がしっかりしている間でないと契約ができないからです。
特に以下のようなタイミングで始める人が増えています:
- 退職を迎えたとき(60歳前後)
- 病気や入院を経験したとき
- 親の介護や死をきっかけに将来を考えたとき
「まだ早い」と思っているうちに、体調の変化などで準備できなくなるケースも少なくありません。
今すぐにすべてを整える必要はなくても、少しずつ「自分の希望」や「契約の検討」を始めておくと安心です。
5.2 自分に合った契約内容を選ぶポイント
死後の準備といっても、必要な契約内容は人それぞれ。
無理のない範囲で、自分の状況に合った内容を選ぶのがポイントです。
契約を選ぶときのチェックポイントを挙げてみましょう:
- 頼れる家族や親族がいるか
→ いない場合は死後事務委任契約は必須 - 資産や持ち家の有無
→ 遺言書を公正証書で残すのが安心 - 認知症や身体の不安があるか
→ 任意後見契約の併用が有効 - 賃貸住宅やペットの管理が必要か
→ 解約・引き継ぎの明記を忘れずに
また、1つの契約で全てをカバーしようとせず、必要なものだけを組み合わせるのも賢い方法です。
自分の「生活状況」「希望」「信頼できる人の有無」をもとに、最適な組み合わせを選ぶことが大事です。
5.3 専門家に相談するメリットとは
「契約って難しそう」「誰に何を頼んでいいかわからない」
そんなときに頼れるのが、司法書士や行政書士などの専門家です。
専門家に相談するメリットはたくさんあります:
- 自分の希望に合わせたアドバイスをもらえる
- 書類作成や契約のサポートをしてくれる
- 必要な範囲や費用の見通しが明確になる
- 法的に有効な形で残せるので安心
特に死後事務委任契約は内容が複雑になりがちです。
そのため、経験豊富な専門家に依頼することで、トラブルを未然に防げる可能性がぐんと高まります。
準備に不安を感じたら、まずは無料相談などを利用してみるのがおすすめです。
6. まとめ:おひとりさまが安心して最期を迎えるために
おひとりさまが直面する「死後の手続き」は、家族がいる場合と比べて準備すべきことが格段に多くなります。
死亡届の提出や葬儀の手配、契約の解約、遺品整理やデジタル遺品の処理まで、すべてを任せられる存在を事前に確保することが安心の第一歩です。
今回ご紹介したように、
- エンディングノートや遺言書で意思を明確にする
- 任意後見契約・死後事務委任契約を活用する
- 信頼できる契約先を選び、費用と範囲を明確にしておく
- 専門家のサポートを活用して抜け漏れを防ぐ
といった準備を重ねることで、自分の望む最期を迎えることができ、他人に迷惑をかけずに済みます。
時間がある今のうちに少しずつ準備を始めることで、将来への不安はぐっと減らせます。
「誰にも迷惑をかけたくない」「自分らしく最期を迎えたい」と思ったときこそが、終活を始めるタイミングです。
まずは、信頼できる専門家やサービスに相談するところから、一歩を踏み出してみてください。
終活は、未来の自分への優しさであり、大切な人生の締めくくりです。
身元保証・死後事務なら終活協議会にお任せください
おひとりさまの不安をまるごと解消する「心託サービス」では、入院や施設入居時の身元保証から、死後の手続き・遺品整理まで幅広く対応。専任コンシェルジュがあなたに寄り添い、もしもの時も安心です。
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▶ 詳しくは「終活協議会」のホームページをご覧ください。
監修

- 一般社団法人 終活協議会 理事
-
1969年生まれ、大阪出身。
2012年にテレビで放送された特集番組を見て、興味本位で終活をスタート。終活に必要な知識やお役立ち情報を終活専門ブログで発信するが、全国から寄せられる相談の対応に個人での限界を感じ、自分以外にも終活の専門家(終活スペシャリスト)を増やすことを決意。現在は、終活ガイドという資格を通じて、終活スペシャリストを育成すると同時に、終活ガイドの皆さんが活動する基盤づくりを全国展開中。著書に「終活スペシャリストになろう」がある。
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