60代を迎えると、定年退職や子どもの独立といった人生の節目を経て、これからの生き方について考える機会が増えます。
「終活」という言葉には後ろ向きなイメージがあるかもしれませんが、実際には第二の人生をより豊かに、自分らしく過ごすための前向きな準備です。
おひとりさまの場合、入院や介護、亡くなったあとの整理など、さまざまな不安を抱えることも少なくないでしょう。それらを一つひとつ解消していくことが、現代における終活の本質的な目的です。
この記事では、60代のおひとりさまが安心してセカンドライフを送るための終活の進め方を具体的にご紹介します。
1. まだまだ元気な60代でも終活を始めるべき理由
「まだ元気だから終活なんて早い」と感じるかもしれません。しかし、60代は体力や判断力が十分で、時間的な余裕もできるため、終活を始めるのに最も適した時期といえます。
2025年に実施したアンケート調査によると、50代以上で終活に関心を持つ方は7割を超えています。
「終活を始めた、または始めようと思ったきっかけ」として最も多かったのは「自分の年齢・健康を意識した」で64.5%、次いで「家族に迷惑をかけたくないと思った」が47.6%、そして「親や身近な人の死を経験した」が23.9%でした。
多くの方が自分の年齢や健康状態を意識したタイミングで、終活の必要性を感じていることが分かります。
こちらの記事では、終活について解説しています。やることリスト10選や注意点も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
1-2. 判断力と体力があるうちに、納得のいく選択をする
終活には判断力と体力が必要です。生前整理や銀行口座、契約の見直し、葬儀や介護に対する希望の整理など、一つひとつが頭と体を使う作業です。
60代であれば、自分の意思で納得のいく選択ができ、自分自身の手で人生の締めくくりを決めることができます。
1-3. 周囲の心理的負担を抑えるため
おひとりさまでも、友人や親族、ご近所づきあいなど、何らかのつながりがあるのではないでしょうか。
もし何の準備もなく突然の事態が起これば、周囲の人々に大きな負担をかけてしまいます。事前に終活を進めることは、周囲への思いやりでもあります。
1-4. おひとりさま特有のリスクを防ぐため
上記アンケートでは「身寄りがいない/少ないため」と答えた方が12.1%いらっしゃいました。
おひとりさまが最も注意すべきなのは、認知症などで判断能力が低下した際に起こる「資産凍結」です。介護施設への入居費用や入院保証金(入院費)を自分の口座から支払えなくなる事態が現実に起こり得ます。
このリスクを回避するためにも、判断能力があるうちに「任意後見契約」を結び、専門の「身元保証サービス」を利用する対策が必要です。
1-5. これからの人生を謳歌するため
終活は「最期」に向けた準備だけではなく、これからの人生をより充実させるための前向きな活動です。
身の回りを整理することで、本当に大切なものが見えてきます。将来への備えを整えることで、漠然とした不安が消え、今この瞬間を心から楽しむことができるのです。
2. 終活としてすることリスト
終活と言っても、やるべきことは多岐にわたります。
ここでは、おひとりさまの60代が優先して取り組みたい4つの項目をご紹介します。まずは、このリストで「何をするか」を整理しましょう。具体的な進め方については、次の章で詳しく解説します。
2-1. 持ち物と住まいの生前整理
長年暮らしてきた家の中には、気づかないうちに多くの物がたまっています。
物を整理する生前整理は、終活の基本中の基本です。また、生前整理の目的は遺品整理の負担を減らすことだけではありません。
物を減らすことで、現在の生活がより快適になり、転倒や災害時のリスクを大幅に減らせます。動線が確保され、掃除もしやすくなり、日々の暮らしが格段に楽になります。
2-2. 資産状況の整理とデジタル遺産の見える化
銀行口座がいくつあるか、保険に何本加入しているか、証券や不動産の権利書がどこにあるか、把握できているでしょうか。
資産状況の整理は、終活において非常に重要な項目です。自分でも把握しきれていない資産があれば、いざというときに誰にも見つけられず「休眠資産」になってしまう可能性があります。
銀行口座、証券口座、不動産、保険、年金、クレジットカード、各種会員サービスなど、すべての資産を書き出しましょう。
SNSのアカウントやオンラインストレージに保存したデータ、電子マネーの残高といったデジタル遺産も忘れずにリスト化しておきましょう。
これらの情報を一覧化することで、自分の資産状況が明確になり、今後の生活設計を立てやすくなります。
2-3. 医療・介護と「身元保証サービス」の検討
おひとりさまにとって、医療や介護が必要になったときの備えは非常に重要です。入院や手術、介護施設への入居には、多くの場合、身元保証人や緊急連絡先が必要となります。
まず、延命治療に対する自分の希望を明確にしておきましょう。次に、在宅介護を希望するのか、施設への入居を考えるのか、介護のスタイルについても検討しておきます。
そして最も重要なのが、身元保証の問題です。親族に頼めない場合は、専門の身元保証サービスを利用する選択肢があります。
2-4. 葬儀・お墓の計画と死後事務
自分の葬儀やお墓について考えるのは気が重いかもしれませんが、だからこそ元気なうちに決めておくことが大切です。
葬儀については、規模や形式、費用、参列してほしい方など、さまざまな希望があるはずです。
家族葬にするのか、一般葬にするのか、火葬のみの形式にするのか。遺影に使いたい写真や最後に着たい服なども、元気なうちに決めておけば心残りがありません。
お墓についても、先祖代々の墓に入るのか、新たに墓を購入するのか、それとも納骨堂や樹木葬といった選択肢から選ぶのか、じっくり検討しましょう。
さらに、見落としがちなのが死後事務です。亡くなったあとには、公共料金の解約、賃貸契約の解除、SNSアカウントの削除、遺品整理など、多くの手続きが発生します。
おひとりさまの場合、親族に頼れないなら、「死後事務委任契約(亡くなった後の手続きを他者に委任するための契約)」を結んでおく方法もあります。
3. 終活のステップ
理想の最期を思い描くことから始め、最終的に専門機関との契約で安心を形にするまでの5つのステップをご紹介します。
3-1. 理想の最期をイメージする
終活の第一歩は、漠然とした不安を具体的なイメージに変えることから始まるというのは前述のとおりです。どんな最期を迎えたいのか、どんな形で人生を締めくくりたいのか、じっくり考えてみましょう。
たとえば、やりたいことリストを作るのもひとつの方法です。
「もう一度行きたい場所」「会いたい人」「挑戦してみたいこと」これらをリストに書き出すことで、残された時間をどう使いたいかが明確になります。
また、自分の葬儀について想像することも大切です。どんな雰囲気の式にしたいか、誰に来てほしいか、どんな音楽を流してほしいか。細かい部分までイメージすることで、自分の希望が具体的になります。
3-2. 身の回りの物を整理する
理想の最期がイメージできたら、次は実際に手を動かす段階に進みます。まずは引き出し1つ、クローゼットの一角など、小さな範囲から始めましょう。
整理の基準はシンプルです。「今使っているか」「これから使う予定があるか」の2つの質問に「いいえ」と答えたものは、手放す候補になります。
衣類なら1年以上着ていない服、食器なら来客用に取っておいた大皿、本なら長年「積読(つんどく)」している本などが該当します。
思い出の品は、写真に残してから手放す方法も有効です。少しずつ、自分のペースで進めることが大切です。
3-3. 資産と情報の棚卸しを行う
物の整理が進んだら、次は銀行口座、クレジットカード、保険、不動産など、すべての資産を書き出しましょう。
長年使っていない休眠口座があれば解約を検討し、年会費を払い続けているだけのサービスは整理します。
保険については、保険証券を集め、加入している保険の種類、保険金額、受取人が誰になっているかを確認しましょう。加入から長い年月が経っていれば、現在の状況に合っていないこともあります。
すべての情報を一覧表にまとめ、信頼できる場所に保管します。このリストがあれば、自分自身も全体像を把握しやすくなり、万が一のときにも役立ちます。
3-4. エンディングノートを書く
資産と情報の棚卸しが終わったら、それらをエンディングノートという形でまとめていきます。エンディングノートには法的な効力はありませんが、形式にとらわれず、自分の言葉で自由に思いを綴ることができます。
基本情報や家族、親族の連絡先、資産状況、医療や介護の希望、葬儀やお墓の希望、大切な方へのメッセージなどを書きましょう。
一度にすべてを書き上げる必要はなく、少しずつ書き足していけば大丈夫です。ただし、保管場所を信頼できる方に伝えておくことを忘れないようにしましょう。
3-5. 専門機関との契約を進める
終活の最終ステップは、自分ひとりでは完結できない部分を専門機関との契約によって確実なものにすることです。
判断能力が低下した際の財産管理については「任意後見契約」、亡くなったあとの諸手続きについては「死後事務委任契約」を、それぞれ専門家と結んでおくことができます。
「身元保証サービス」を契約しておけば、入院や施設入居の際に身元保証人の問題で困ることがなくなります。
これらの契約は、正当な対価を支払うことで、誰にも気兼ねせず自分の意思を貫くための「前向きな自立の手段」となるのです。
4. 終活で失敗しないための注意点
おひとりさまだからこそ陥りやすい落とし穴やよくある失敗例を知っておくことで、後悔のない終活を進めることができます。
4-1. 重要書類や貴重品は必ず残す
物の処分を進めていると、勢いで大切な物まで捨ててしまうことがあります。
不動産の権利書、保険証券、年金手帳、各種契約書、銀行の通帳や印鑑、健康保険証、マイナンバーカード、株券など、再発行が困難な物や再発行に時間と費用がかかる物は絶対に処分してはいけません。
断捨離の際は、書類を「絶対に残す物」「保管期限が決まっている物」「処分してよい物」の3つに分類しましょう。判断に迷ったら、無理に捨てる必要はありません。
4-2. 無理に捨てず今の生活を優先する
「終活のためには物を減らさなければ」と考え、無理な断捨離をしてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、思い出の詰まった物を無理に手放し、あとから深く後悔するケースは少なくありません。大切な思い出の品に囲まれて穏やかな気持ちで過ごせるなら、それは無理に手放す必要のない物です。
終活は、自分を苦しめるためのものではありません。これからの人生をよりよく生きるための準備です。無理のない範囲で、自分が納得できるペースで進めることが何より大切です。
4-3. まとめて一気に作業を行わない
「週末に家中の片付けを終わらせよう」と意気込んで始めると、たいていの場合、途中で疲れ果ててしまいます。
まだまだ元気な60代とはいえ、長時間の作業は体力的にも精神的にも負担が大きく、一気に進めようとすると判断が雑になりがちです。終活は短距離走ではなく、長距離走です。
「今日はここだけ」と範囲を決め、小さな目標を立てて一歩ずつ達成していきましょう。
4-4. 老後の資金計画を十分に練る
終活の一環として、生前贈与や相続の準備を考える方もいるでしょう。しかし、自分の老後資金が十分に確保されているかという点には注意が必要です。
人生100年時代と言われる現代、60代から先の人生はまだ30年以上続く可能性があり、生活費、医療費、介護費用など、必要なお金は想像以上に多額になります。
まずは、最期まで安心して暮らせるだけの資金を確保することを優先しましょう。
4-5. 財産管理は専門家へ委託する
おひとりさまの場合、財産管理を知人や遠方の親族に安易に預けてしまうと、思わぬトラブルに発展することがあります。
「預かってほしい」と頼んだつもりが、相手が「もらった」と解釈してしまったり、認知症になったあとに財産を使い込まれてしまったりといった悲しい事例は珍しくありません。
弁護士や司法書士、信託銀行などの専門機関であれば、守秘義務があり、法的な裏付けを持って財産を管理してくれます。費用はかかりますが、それは安心を買うための投資です。
5. 終活で検討したい契約・サービス
おひとりさまの終活では、判断能力が低下したときの財産管理や、入院・施設入居時の身元保証、亡くなったあとの諸手続きなど、自分ひとりでは完結できない部分が多くあります。
法的な契約やプロのサービスを活用することで、安心につながります。
5-1. 将来の判断や手続きを託す契約
認知症などで判断能力が不十分になったとき、自分の財産や生活をどう守るかは、おひとりさまにとって喫緊の課題です。
判断能力が低下すると、銀行口座からお金を引き出したり、介護サービスの契約を結んだりすることができなくなります。
こうした事態に備えるためには「見守り契約」「財産管理委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」といった契約が有効です。
これらの契約は、単独で結ぶこともできますし、複数を組み合わせて活用することも可能です。
5-2. 「プロの力」を借りる生前整理
生前整理は体力と時間を要する作業です。大型家具の処分、大量の書類の仕分け、押し入れの奥にしまい込んだ荷物の整理など、ひとりでは手に負えない作業も出てくるでしょう。
心身のダメージを負う前に、生前整理の専門業者に頼むことを検討しましょう。プロの業者であれば、効率的かつ的確に整理を進めてくれます。
費用はかかりますが、それは体力と時間を確保するための「投資」と考えることもできます。
5-3. 自分らしい葬儀を実現するための生前予約
葬儀の生前予約(自分の葬儀を自分で決めておくこと)は、最期まで自分らしく生きるための大切な選択です。
費用面での安心を得られるとともに、葬儀の規模や形式、演出、使用する音楽や花など、細部まで自分の希望を伝えることができます。
おひとりさまの場合、生前に葬儀社と契約しておけば、葬儀社が喪主の代行をしてくれるサービスも利用できます。
まとめ
60代からの終活は、決して早すぎることはありません。判断力と体力があり、時間的な余裕もあるこの時期だからこそ、落ち着いて自分の将来と向き合うことができます。
とくにおひとりさまの場合、身元保証、財産管理、死後の手続きなど、自分ひとりでは完結できない部分について、今のうちから対策を講じることが重要です。
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監修

- 一般社団法人 終活協議会 理事
-
1969年生まれ、大阪出身。
2012年にテレビで放送された特集番組を見て、興味本位で終活をスタート。終活に必要な知識やお役立ち情報を終活専門ブログで発信するが、全国から寄せられる相談の対応に個人での限界を感じ、自分以外にも終活の専門家(終活スペシャリスト)を増やすことを決意。現在は、終活ガイドという資格を通じて、終活スペシャリストを育成すると同時に、終活ガイドの皆さんが活動する基盤づくりを全国展開中。著書に「終活スペシャリストになろう」がある。
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