家族や親族が亡くなると相続が発生し、相続人となった方は多種多様な手続きをする必要があります。しかし相続に慣れている方は多くないため、戸惑うかもしれません。
「相続手続きはどこから手を着ければいい?」
「いつまでにどのような手続きをすべきなのか?」
「必要な書類は何か?」
本記事では、上記のような疑問にお応えします。これから相続手続きをする予定の方、事前に概要を知っておきたい方は、最後までご覧ください。
目次
相続手続きには期限がある
相続が発生するとさまざまな手続きが生じ、相続人になった方は期限内にそれらを済ませなければなりません。特に重要なのは3ヵ月・4ヵ月・10ヵ月の3つの期限です。
期間は最短で7日、最長で5年となっており、その時々によって必要な手続きは変わってきます。相続手続きの一覧表と目安をチェックして、抜け漏れがないか確認しましょう。
もし期限内に手続きをしないと、相続人に不利益が及ぶ可能性があります。たとえば借金の返済義務を引き継いだり、相続税の申告が間に合わず延滞税が発生したりします。相続人になった方は、必ず手続きの期限を確認しながら行動してください。
相続発生から7〜14日以内にする手続き
相続手続きの序盤では、世帯主の変更や公共料金の名義変更などをおこないます。本格的な相続が始まるのはこれからで、まずは日常生活に関連する手続きがメインです。
なお、以下では葬儀関連の手続きや金融機関への連絡などが済んでいる前提で解説します。
世帯主変更届の提出
被相続人が世帯主だった場合、14日以内に新たな世帯主を決めて役所へ届け出ます。通常は死亡届と同時に提出することが多いでしょう。
世帯主変更届の提出は、必要な場合とそうでない場合に分けられます。以下、表にまとめました。
世帯主変更届が必要な場合 | 世帯主変更届が不要な場合 |
---|---|
・15歳以上の方が2人以上いる
・新しい世帯主が決まっていない |
・被相続人以外に世帯を構成する人がいない
・世帯に2人しかいない状態でどちらかが亡くなった ・世帯主が亡くなり、親と15歳未満の子どもが世帯に残された |
・新しい世帯主が決まっていない・被相続人以外に世帯を構成する人がいない
・世帯に2人しかいない状態でどちらかが亡くなった
・世帯主が亡くなり、親と15歳未満の子どもが世帯に残された
ご自身がどちらに該当するか確認し、届出の有無を判断してください。
公共料金や各種サービスの名義変更手続き
世帯主の変更届を提出した場合、水道・電気・ガスなどの契約名義も変更する必要があります。いずれも生活に必要なライフラインのため、すみやかに手続きを済ませましょう。またインターネット・固定電話の料金などを継続して利用する場合も同様です。
被相続人の死後に空き家を片付ける場合は、電気や水道など一部のライフラインを残しておき、目処がついた時点で解約するのがおすすめです。
故人名義のクレジットカードやサブスクリプションサービスなどがあれば、早めに解約しておきましょう。手続きを忘れてしまうと、料金が発生し続けてしまいます。
国民年金・厚生年金の受給停止手続き
被相続人が国民年金または厚生年金を受給していた場合、亡くなった時点で受給資格を喪失します。それぞれ期限内に「受給権者死亡届」を提出しなければなりません。書類の提出先は年金事務所または年金相談センターです。
国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内となっています。うっかり手続きを忘れると被相続人の死後も年金が振り込まれ、後ほど返金しなければなりません。
なお日本年金機構にマイナンバーを登録している場合は、死亡届を出した時点で関係機関と情報が共有され、受給停止手続きが不要な場合もあります。
健康保険・介護保険の資格喪失手続き
年金と同様に、健康保険や介護保険についても資格喪失手続きが必要です。国民健康保険(後期高齢者医療制度を含む)の対象者が亡くなったら、14日以内に役所の窓口で手続きをしてください。
被用者保険(会社員が対象)なら5日以内に年金事務所へ保険証を返却します。なお会社へ保険証を郵送すれば、被相続人の勤務先が資格喪失手続きを代行してくれます。
被相続人が65歳以上、もしくは40歳以上65歳未満で介護保険のサービスを受けていた場合は、14日以内に介護保険証と介護保険資格喪失届を役所へ提出してください。
相続発生から3~4ヵ月以内にする手続き
続いては相続発生から3~4ヵ月以内を目処におこなう4つの手続きを紹介します。相続と聞いて思い浮かべるであろう手続きが登場するのはここからで、相続人にかかる負担が徐々に増してくるでしょう。まずは全体像の把握をおすすめします。
遺言書の有無の確認
遺言書(いごんしょ)とは、誰がどの財産を承継するかを明記した法律上の文書です。遺言書がある場合、基本的にその内容にしたがって遺産を分割します。
遺言書がないと思っていても、実は被相続人がどこかに保管しているケースもあり得ます。所持品を改めたり、公証役場の遺言検索で探したりすると見つかるかもしれません。遺言書がなければ、法定相続分を適用して遺産分割します。注意点として、エンディングノートには法的拘束力がないと覚えておきましょう。
相続人・相続財産の調査
相続手続きを進めるにあたり、できるだけ早く相続人を確定させて財産を調査する必要があります。
被相続人の家族や親族であれば、調べなくても誰が相続人になるか把握できているでしょう。その場合でも対外的な証拠として戸籍が必要で、被相続人との関係を客観的に証明する際に用いられます。
総額がわからないと相続手続きができないため、相続財産の調査も同時に進めなければなりません。財産のなかには借金のようにマイナスのものもあります。負債が多い場合、むしろ相続しないほうが利益になるでしょう。
相続放棄・限定承認
相続放棄とは、「私は相続人にはなりません」と意思表示する手続きです。3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があるため、相続放棄を検討する場合は早めに決定しないと間に合わない可能性があります。
限られた範囲内で被相続人の財産や権利義務を引き継ぐのが限定承認で、こちらも3ヵ月以内に手続きを済ませなければなりません。特に制限を設けずに相続を承認する単純承認とは異なり、相続人全員の同意がいるため余裕をもって進めてください。
準確定申告
準確定申告とは、被相続人に代わって相続人が所得の申告をする手続きのことです。
必ずしも実施する必要はなく、条件に当てはまる場合のみとなります。たとえば年金収入が400万円以上あった方が亡くなったとすると、その翌日から4ヵ月以内に確定申告をしなければなりません。
手続き場所は被相続人が最後に住んでいた住所を管轄する税務署です。他の相続手続きと併行して準備するため、自力でおこなうのが難しければ税理士に依頼すべきでしょう。
相続発生から10ヵ月~1年以内にする手続き
遺言書の確認や相続人の調査などが終わったら、いよいよ遺産分割が待ち受けています。10ヵ月以内に相続税の申告・納付を済ませないと延滞税が発生するため、できるだけすみやかに手続きをおこなってください。
遺産分割協議
相続でもっとも大変なのが遺産分割協議で、可能であれば10ヵ月以内が理想です。遺言書が存在する場合でも財産の取り分で揉めるのはよくあるケースで、遺言書がなければさらに手間と時間がかかるでしょう。
相続人のうち誰か一人でも反対すると遺産分割協議は成立せず、それぞれ納得できる落としどころが見つかるまで話し合いが続きます。
意見がまとまらない場合は調停(裁判所が仲介する話し合い)や審判(裁判所による命令)など訴訟に発展することも珍しくありません。この状況になると少なくとも数ヵ月はかかると考えられます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割がまとまったら、次に遺産分割協議書を作成します。手書きでもパソコンでも構いませんが、ひな形に沿って記載しなければ無効です。
【遺産分割協議書に記載する内容】
- 被相続人の氏名、死亡日、最終の住所、本籍地
- 法定相続人の氏名
- 被相続人との続柄
- 各自に分ける財産の種類と金額
- 書面を作成した日付
書面が完成したら人数分を作成して渡し、相続人全員が実名で署名押印します。ページが複数にまたがる場合は、見開きのページにまたがってハンコを押してください。
相続税の申告・納付
相続財産の総額が確定したら、いよいよ相続税の申告・納付をおこないます。相続税の基礎控除額を超えている場合は納税の義務があります。
【相続税の基礎控除の計算式】
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
最低でも3,600万円が基礎控除の対象となります。相続人の人数が多いほど控除額が大きくなると覚えておきましょう。ただし配偶者控除のように申告要件がある特例制度を適用した場合、相続財産が0円でも申告手続きが必要です。
遺留分侵害請求の申し立て
遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人が被相続人の財産から取得できる最低限の取り分です。
生前贈与や遺産分割によって相続人の遺留分が侵害された場合は、余分に財産を受け取った相手に対して相当分の金銭の支払いを請求できます。
遺留分侵害請求を行使できる期間は以下のとおりです。
- 相続が開始したことを知ってから1年以内
- 遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内
- 相続が始まってから10年以内
遺留分を侵害された当事者またはその承継人は、期限内に手続きをしましょう。
遺留分侵害請求について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相続発生から2~5年以内にする手続き
相続税の申告・納付が終わっても、やるべきことはまだ残っています。期限には余裕があるものの、一連の手続きに追われて見落とすケースがあるかもしれません。ここでは身辺が落ち着いたところで着手すべき手続きを紹介します。
葬祭費・埋葬料の請求
葬祭費とは、国民健康保険の加入者が亡くなり葬儀を執りおこなった際に受け取れる給付金です。埋葬料は協会けんぽなどの社会保険に加入していた方が対象で、健康保険組合に申請します。
【葬祭費・埋葬料の違い】
葬祭費 | 埋葬料 |
---|---|
・金額は3~7万円(自治体による)・被保険者が亡くなってから2年以内に申請する | ・金額は一律で5万円・葬儀が終わってから2年以内に申請する |
・被保険者が亡くなってから2年以内に申請する・金額は一律で5万円
・葬儀が終わってから2年以内に申請する
給付は片方のみで、両方に申請できないと覚えておきましょう。
高額医療費の還付申請
被相続人が入院して長期療養していた場合、医療費の自己負担額が一定額を超える可能性があります。高額医療費の対象となることが明らかであれば、還付申請を検討しましょう。
申請期間は診療月の翌月から2年以内と定められており、申請先は以下のとおりです。
- 国民健康保険の加入者:お住まいの市区町村役場
- 社会保険の加入者:協会けんぽ、健保組合など
被相続人がどの健康保険に加入していたかによるため、確認のうえ手続きをしてください。高額療養費支給申請書に加え、医療費の領収書や戸籍謄本などが必要です。
不動産の相続登記
不動産を相続した方は、所有権を取得してから3年以内に相続登記をしなければなりません。不動産の所在地を管轄する法務局で手続きをしましょう。
ちなみに2024年1月から不動産の相続登記が義務化され、正当な理由なく手続きを怠ると10万円以下の過料(行政上の罰金)を命じられる可能性があります。
3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」をすることで処罰を回避できます。ただしあくまで仮の措置ゆえ、改めて登記手続きが必要です。
生命保険金の請求
被相続人から生命保険金を承継した方は、3年以内に保険会社へ支払いの請求をしましょう。被相続人が亡くなったからといって保険金が自動的に振り込まれることはないため、注意が必要です。
【生命保険金の請求に必要な書類】
- 保険証券
- 生命保険会社が指定する支払い請求書
- 被保険者の住民票(除票)の写し
- 受取人の戸籍謄本(抄本でも可)
- 受取人の印鑑証明書
- 被保険者の死亡診断書、生命保険会社指定の死亡証明書
- 事故証明書(事故で亡くなった場合)
不明点があれば保険会社に問い合わせて確認してください。
遺族年金・未支給年金の受給申請
遺族年金とは、国民年金または厚生年金の被保険者によって生計を維持されていた方が受け取れる年金です。
「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、被相続人の年金の加入状況により、いずれか両方が支給されます。
年金を受給していた方が亡くなった場合、まだ支給されていない年金があれば受給申請しましょう。死亡日より後に振り込まれた年金のうち、亡くなった月分までの年金がある場合も同様です。いずれも5年以内ですので、忘れないうちに手続きを済ませてください。
相続手続きに必要な書類一覧
ここまで期間の目安ごとに相続の流れを説明してきました。先に必要な書類を把握しておくと、その都度調べる手間が省けます。
【相続手続きに必要な書類リスト】
- 住民票
- 戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本、戸籍の附票
- 印鑑証明書
- 不動産登記簿謄本
- 固定資産評価証明書
- 金融資産の残高証明書
- 遺産分割協議書
- 遺言書の検認済み証明書
- 家庭裁判所の審判書
必要に応じて、上記以外の書類をそろえることがあります。
特に戸籍関連の書類は種類が多く、わかりにくいかもしれません。血縁者でも本人以外が取得する場合は委任状が必要なため、想定より時間がかかる可能性があります。
相続手続きは専門家に代行してもらえる
相続手続きは複雑で難しいため、法律や税金の専門知識がある専門家のサポートがあると安心です。誰に相談すべきかは各家庭の状況によるため、まずは目の前の問題を整理するところから始めましょう。
弁護士
相続財産に付随するトラブルが発生している場合、弁護士に相談するのが確実な選択肢です。税金や不動産登記などは専門外ですが、相続に関する手続きはおおよそ対応してもらえます。
【弁護士に依頼できる業務の一例】
- 遺言書の検認(内容を確認する手続き)
- 相続人の調査・確定
- 相続放棄や限定承認の手続き
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議などの手続き
対応可能な業務の幅が広い分、費用は高めです。たとえば遺産分割調停を依頼する場合で着手金が30万円から、弁護士報酬は相続した遺産の4~16%ほどになるでしょう。
税理士
相続税の申告に関わる悩みがある場合は、税理士に依頼するのが一般的です。特に相続財産が多額になるなら、税金のプロに相談すべきでしょう。
【税理士に依頼できる業務の一例】
- 相続人の調査・確定
- 相続税の算出
- 遺産分割協議書や遺言書の作成
依頼内容にもよりますが、費用は20~50万円です。税理士は節税対策に詳しいため、相続税を最小限に抑える方法を知りたい方は相談してみてください。問い合わせる前に資産状況や家族構成などを整理しておくことを推奨します。
司法書士
司法書士は登記手続きに精通している専門家です。不動産を相続した場合、不動産の所有権を移転したり(名義変更)、相続登記をおこなったりしなければなりません。自力でやるのが難しければ司法書士に依頼しましょう。
【司法書士に依頼できる業務の一例】
- 相続人の調査
- 不動産の相続登記
- 相続放棄・限定承認の書類作成代行
- 遺産分割協議の仲介(相続財産に不動産が含まれる場合)
不動産一件あたり5~6万円、相続に関する手続き全般を依頼すると20~50万円ほどかかります。
行政書士
法律関連の文書作成でサポートがいるなら行政書士に依頼するのがおすすめです。弁護士のように法律上のトラブルを解決する権限はありませんが、相談自体はできます。
【行政書士に依頼できる業務の一例】
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 自家用車や株式などの名義変更手続き
相続手続きの一部を代行してもらいたい場合は、行政書士に問い合わせるといいでしょう。費用は他の士業より安い傾向にあり、遺産分割協議書の作成で3~5万円程度です。
まとめ:自分で相続手続きをするのが難しければ専門家に相談するのがおすすめ
相続の手続きと一口にまとめても、期間が短いものから長いものまで多岐にわたります。それぞれ所定の期限内に済ませなければならず、ときには複数の手続きを同時に進めなければならない時期もあるでしょう。
遺言書がある場合とない場合とでは、遺産分割の手続きの流れがまったく異なります。遺言書があれば記載内容に従って財産を分け、なければ法定相続分に則って分与するのが一般的です。
いずれにしろ高度な専門知識が求められるため、いくつもの疑問点が生じるはずです。相続手続きに不安がある方は、事前に終活のプロに相談してはいかがでしょうか。
監修
-
1997年 東洋大学法学部卒業
大学在学中から司法書士試験の勉強をしつつ、1999年株式会社サイゼリヤに入社
7年間勤務した後、再度司法書士を目指すため2006年退社
2007年 司法書士試験合格
2008年 司法書士登録
試験合格後は、都内の司法書士事務所や法律事務所にて勤務
2021年 「落合司法書士事務所」開設
2021年 一般社団法人終活協議会理事就任
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