生前贈与とは?非課税枠や知っておくべき注意点を解説!
2023年の税制改正で制度が変更され、注目を集めている生前贈与。「節税対策になる」と聞いて生前贈与を検討する人もいるでしょう。
「生前贈与の具体的な手続き方法を知りたい」
「賢く相続税対策するにはどのように生前贈与をおこなえばいい?」
本記事では、上記のような疑問にお応えします。同じ生前贈与でも、2024年1月1日以降とそれ以前とを比較すると、一部異なる点があります。これから生前贈与の当事者になる人は、ポイントや注意点を押さえておきましょう。ぜひ最後までお読みください。
目次
生前贈与とは生きているうちに資産を継承させること
生前贈与とは、被相続人になる予定の人が第三者へ財産を移転することです。
民法882条によると相続は被相続人が亡くなってから開始しますが、生前贈与は時期の制限がありません。最大の違いは財産を渡す相手で、配偶者や子どもなどの身内に限らず、血縁関係のない人も対象になります。
【生前贈与と認められる条件】
- 片務契約:受贈者に負担がないこと
- 諾成契約:双方の合意があること
- 無償契約:受贈者に対して見返りがないこと
これらの条件を満たした場合のみ生前贈与が成立すると覚えておきましょう。
生前贈与には2種類の方法がある
生前贈与は以下の2種類に分かれます。
- 暦年課税制度
- 相続時精算課税制度
2023年に税制改正が実施された結果、これらの制度には重要な変更が加えられました。暦年課税制度は使い勝手が悪くなり、逆に相続時精算課税制度は利便性が向上しました。以下、それぞれの概要を紹介します。
暦年課税制度
暦年課税制度とは、毎年1月1日~12月31日までの期間に贈与された財産に対して課税する仕組みです。受贈者(生前贈与を受ける人)一人あたり年間110万円までなら贈与税は発生せず、非課税枠を超えると金額によって10〜55%の税金が発生します。現金や預貯金はもちろん、有価証券・不動産などの財産も生前贈与の対象に含まれます。
2023年の税制改正により、2024年1月1日以降におこなわれた生前贈与については、7年前まで遡って相続税の課税額に足し戻されることとなりました。ただし、2023年12月31日までの生前贈与はこれまで通り3年の加算期間が適用されます。
相続時精算課税制度
60歳以上の人が18歳以上の子ども・孫に財産を渡す場合は、相続時精算課税制度も選択できます。なお、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得したケースでは、20歳以上が対象です。
以前は「相続税の先送り」だったため、節税効果がなく使い勝手に難がありました。そこで以前からあった2,500万円の特別控除枠に、年間110万円の非課税枠が新設されたのです。
2,500万円を超過した金額には一律で20%、110万円を超えた部分には10~55%の贈与税が発生します。税務署に「相続時精算課税制度選択届出書」を提出しないと制度が適用されず、暦年課税制度の扱いになるため、必ず書類を出してください。一度、相続時精算課税制度を選ぶと変更は不可能です。
生前贈与をおこなう4つのメリット
生前贈与の方法がわかったところで、4つの利点を解説しましょう。よくあるメリットとして、「節税効果がある」という点が挙げられます。それ以外にも、財産を分与する人の利益になりうる部分が存在します。
節税効果を期待できる
生前贈与は、相続税の負担を軽減する手段として広く利用されています。相続発生時に多額の財産があると相続税も高額になりますが、生前贈与を通じて財産を圧縮することで、基礎控除額に収めることが可能です
【相続の基礎控除額の計算式】
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
つまり最低でも3,600万円(法定相続人が一人の場合)が基礎控除額となり、これ以下なら相続税は発生しません。ただし生前贈与の非課税枠を超えると贈与税が適用されます 。
法定相続人以外にも財産を贈与できる
相続では法定相続人のみに遺産が継承され、被相続人が「血縁者以外にも財産を渡したい」と思っても法律の壁を超えられません。しかし生前贈与は相手を問わずおこなえるため、友人・知人なども対象です。
「長年にわたりお世話になった人へのお礼として、財産の一部を譲りたい」という場合は、生前贈与により希望を叶えられます。あらかじめ相続人に財産を前渡しすることで、被相続人の死後にトラブルが発生するのを防ぐ効果も期待できるでしょう。
贈与するタイミングを調整できる
相続は被相続人が亡くなってからでないと財産分与の手続きができません。それでは不都合が生じる場合に活躍するのが生前贈与です。
任意の時期に財産を移転できるメリットとして、株価や地価が高いタイミングを狙える点が挙げられます。その他にも、孫の教育費が必要なときに資金援助も兼ねてお金を渡せるといった利点があるでしょう。
非課税枠の範囲内なら税金は発生しないため、賢く活用すれば贈与者・受贈者の双方が得をします。
被相続人が年配の場合は認知症の対策になる
日本人の平均寿命が伸びているなかで、高齢者の増加に伴い認知症患者も増加しています。
認知症が進行すると財産の管理が困難になり、一時的に預貯金口座が凍結されお金を引き出せなくなるリスクがあります。たとえば「入院費用や高齢者施設への入居費用などを捻出する際に困る」といったケースが想定されるでしょう。
このようなトラブルを防ぐために、年配者が元気なうちに生前贈与しておくのも有効な手段です。
生前贈与をおこなう3つのデメリット
生前贈与は便利な制度ですが、必ずしもプラスに作用するとは限りません。なかにはマイナスの結果になる場合もあります。ここでは3つのデメリットを紹介しますので、参考にしてください。
加算期間が伸びて相続税の課税対象財産が増える可能性がある
以前の税制では、被相続人が亡くなった時点から3年前までの生前贈与に遡って課税される(加算期間)とされていました。直近の改正により、2024年1月1日からは加算期間が7年に延長されています。
これから生前贈与をするなら、少なくとも7年以上は生きる見込みがないと節税効果を期待できません。ただし2023年12月31日までに贈与した財産は、従来通り3年の加算期間が適用されます。7年間の加算期間に完全移行するのは2031年1月1日以降です。
法定相続人から遺留分を請求される可能性がある
遺留分(いりゅうぶん)とは、法定相続人が本来受け取れるはずだった財産を指します。
生前贈与をおこなっていた場合、財産を受け取っていない法定相続人が裁判所に「遺留分侵害請求」の申し立てをするかもしれません。わかりやすく述べると、受贈者に対して「私がもらえる予定だった財産を返してください」と主張することです。
遺留分の算定に含まれる生前贈与は、被相続人が死亡する10年以内とされています。贈与者は法定相続人やその他の人物とのバランスを考慮して生前贈与をしましょう。
老後資金が不足する可能性がある
相続税対策を目的として始めた生前贈与が原因で、贈与者の老後資金が不足するケースも想定されます。自分の寿命を正確に予測するのは困難であり、予想以上に長生きする場合のリスクを計算すべきでしょう。
特に昨今の平均年齢の伸びは凄まじく、男女ともに80歳以上生きる人が多い傾向にあります。年齢を重ねると思わぬ病気やケガで高額な医療費がかかるかもしれません。万が一の事態に備えてまとまったお金を確保しておくべきです。
生前贈与の当事者が知っておくべき5つの注意点
続いては、生前贈与をする側・される側の双方が知っておくべき注意点を解説します。「法律の不知は許さず」といわれるように、知らなかったでは済まされない事態につながるかもしれません。ぜひ押さえておきましょう。
名義預金は生前贈与にならない
名義預金とは、お金の所有者と実際の名義人が異なる預金のことです。名義預金で生前贈与すると被相続人の死後に相続財産とみなされ、相続税が発生するパターンは珍しくありません。
たとえば、親・祖父母世代が子どもや孫の名前で預金口座を開設し、そこに一定期間お金を振り込んだとします。子どもや孫が口座の存在を知らなかった場合、相続財産の一部と認定される可能性が極めて高いのです。このような事態を避ける方法として、受贈者の印鑑で通帳を作成するようにしましょう。
必ず贈与契約書を作成する
贈与者が生前に財産を分割する際は、そのたびに贈与契約書を作成してください。民法では書面の作成が義務付けられていないものの、念のために贈与があった証拠を残しておくと安心です。税務調査が入った場合、契約書があれば生前贈与と認められる確率が高くなります。
契約書には、誰に・いつ・いくら贈与したのかを明記しましょう。生前贈与と認定されるハードルは高く、きちんとした証拠がないと不当に課税されるかもしれません。
贈与金額と贈与する時期に注意する
毎年同じ日にちに同額の贈与をおこなうと、定期贈与とみなされて合計金額に課税されることがあります。すると贈与税が高額になると想定されるため、節税目的で生前贈与したい人は日付や金額をずらすよう心がけてください。
よくあるのは、贈与者が受贈者の誕生日に決まった金額を贈与するケースです。お祝いのプレゼントとして金銭を渡すのは一般的ですが、生前贈与では問題となります。定期贈与にならないように注意しつつ財産を移転しましょう。
早めに生前贈与を始める
生前贈与は「少額かつ長期」でなければ節税効果を発揮しません。直近の税制改正によって加算期間が3年から7年に伸びたこともあり、暦年課税制度の使い勝手が悪くなった点に留意する必要があります。
たとえば、被相続人が亡くなる直前に生前贈与した場合、通常の相続と認定されて相続税の対象に含まれます。いわゆる「かけこみ贈与」は認められないため、贈与者は早めに生前贈与を始めましょう。
あえて生前贈与しないほうがいい場合もある
生前贈与で節税できるケースもありますが、なかには贈与しないほうがいいケースも存在します。たとえばすでに高齢かつ持病がある人の場合、暦年課税制度で贈与すると持ち戻しの対象になる可能性が高いでしょう。
保有する財産の総額が相続税の基礎控除額を超えているとしても、特例制度を活用することで税負担を軽減できるかもしれません。慌てて生前贈与するとかえって損をするため、慎重に判断してください。
生前贈与には特例制度がある
生前贈与の他にも、非課税枠の他に特例制度を活用して節税につなげる方法もあります。ここでは5つの特例制度を紹介しますので、生前贈与以外の手段を検討している人は参考にしてください。
教育資金の一括贈与に関する非課税制度
親・祖父母世代が30歳未満の子どもや孫に教育資金を贈与できる制度です。上限は受贈者一人につき1,500万円が非課税となっています。ただし、塾や習い事など学校以外にかかる教育資金は500万円が上限です。
贈与者は金融機関の窓口で手続きをおこない、子どもや孫名義の口座に一括で振り込んでください。受贈者である子どもや孫は、使途がわかる書類を金融機関に提出することで贈与税を払わずに現金を引き出せます。
なお、受贈者が30歳になった時点で口座に残っている資金には贈与税が発生すると覚えておきましょう。
住宅取得等資金に関する非課税措置
子どもや孫が住宅の購入や増改築をする際に、親・祖父母世代から資金援助を受けることがあります。以下、対象の住宅と金額を表にまとめました。
省エネ・耐震性構造・バリアフリー構造の住宅 | 1,000万円 |
上記に該当しない住宅 | 500万円 |
※いずれも日本国内にある住宅
贈与者には年齢規定があり、贈与を受けた年度の元旦に18歳以上でなければ制度が適用されません。以前に住宅取得等資金に関する非課税制度を利用した人は対象外です。
結婚・子育て資金の一括贈与に関する非課税制度
結婚や子育てにはお金がかかります。そこで親・祖父母が子どもや孫に資金援助する場合、一定の金額まで非課税になる制度を活用するのがおすすめです。この制度が適用されると、出産・育児にかかる費用は1,000万円まで、結婚に関連する費用は300万円までが非課税です。
特例制度を利用するには、金融機関で専用の口座を開設したのちに、税務署へ「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出する必要があります。口座から資金を引き出したら、金融機関に領収書を提出してください。
配偶者控除(おしどり贈与)
贈与税には婚姻期間が20年以上の夫婦を対象とした非課税枠があり、2,000万円の配偶者控除を受けられます。さらに贈与税の非課税枠(110万円)を併用でき、最大で2,110万円までの贈与が非課税となります。
対象となる財産は以下のとおりです。
- 居住用の不動産
- 上記を取得する際に必要な資金
- 店舗兼住宅と付随する敷地
内縁関係や事実婚など法律上の婚姻関係にない夫婦には特例が適用されないため、通常の生前贈与で財産を分与する必要があります。
特定障害者等への贈与に関する非課税措置
特定障害者とは、特別障害者及び特別障害者以外で精神または身体に障害のある人です。特定障害者が扶養信託に基づく信託受益権の制度を使う場合、6,000万円までの贈与が非課税となります。なお、特別障害者以外の人は3,000万円が非課税枠の上限となります。
障害のある人の両親が子どもの将来に備えて利用したり、障害のある方を支援したい人が厚意の印として資金を提供するケースが想定されます。贈与者の死後も信託銀行などの金融機関が財産を管理し、受贈者の生活を援助する制度です。
生前贈与に関するよくある質問
最後に、生前贈与にまつわる質問と回答を紹介します。「財産を手渡してもいいのか?」「2つの制度を併用できるのか」など、疑問を持つ人もいるでしょう。これから生前贈与の当事者になる予定の人は参考にしてください。
現金を手渡ししてもいい?
贈与者のなかには、あえて預金口座を開設せず現金を手渡しする人もいると考えられます。そのやり方でも問題ありませんが、贈与契約書を作成して税金逃れではない旨を証明できる証拠を残してください。
たとえば贈与者の預金口座に複数回の出金記録があった場合、税務調査を誘発するかもしれません。その際に生前贈与を主張できるよう備えるのが賢明です。
暦年課税制度と相続時精算課税制度は併用できる?
贈与者が異なる場合、暦年課税制度と相続時精算課税制度を併用することができます。たとえば父親が相続時精算課税制度を選び、母親が暦年課税制度で子どもに財産を渡すケースが想定されるでしょう。
ただし相続時精算課税制度を使う場合は、税務署に届け出なければなりません。手続きを忘れないよう注意してください。
贈与税の申告は誰がいつまでにすればいい?
贈与税の申告をするのは、受贈者から財産を受け取り、かつ贈与税の支払いが必要な人です。110万円の非課税枠に収まるなら、贈与税の申告をしなくても問題ありません。
贈与税の対象者は、贈与があった翌年の確定申告期間(2月1日~3月15日)に管轄の税務署へ申告手続きをしてください。
不安や疑問があれば終活の専門家に相談するのがおすすめ
生前贈与には高度な専門知識が求められるため、素人が安易に財産を分与するのは得策ではありません。不安や疑問がある人は、法律・税金に詳しい終活の専門家に相談するとよいでしょう。
ご家庭ごとに家族構成や資産状況は異なり、適切な対処法も千差万別です。まずはどの程度の財産があるかを把握して、それから生前贈与すべきか検討しても遅くはありません。相続税対策をおこなってお得に節税したい人は、なるべく早いうちに準備を開始すると安心です。
まとめ
相続税対策の一環として注目されている生前贈与ですが、非課税枠に収まる範囲で贈与しないと税金が発生してむしろ損をしてしまう可能性があります。特定の人物に贈与が集中すると、相続発生時にトラブルを招くことも想定されるでしょう。
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生前贈与で失敗したくない、相続のトラブルを回避したいと考えている人は、この記事をぜひ参考にしてください。
監修
-
1997年 東洋大学法学部卒業
大学在学中から司法書士試験の勉強をしつつ、1999年株式会社サイゼリヤに入社
7年間勤務した後、再度司法書士を目指すため2006年退社
2007年 司法書士試験合格
2008年 司法書士登録
試験合格後は、都内の司法書士事務所や法律事務所にて勤務
2021年 「落合司法書士事務所」開設
2021年 一般社団法人終活協議会理事就任
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