2022年11月8日

法定後見制度とは?|内容と手続きの流れや費用・任意後見制度との違い

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法定後見制度とは、障がいや認知症によって判断能力が衰えてしまった際に、財産管理や身上監護を行う法定後見人を選任できる制度です。

この記事では法定後見制度について、以下のことを解説しています。

  • 法定後見制度の内容
  • 任意後見制度との違い
  • 法定後見人になれる人・なれない人
  • 法定後見制度を利用する流れ
  • 法定後見制度にかかる費用
  • メリット、デメリット

法定後見制度とは?

法定後見制度とは、障害や認知症によって判断能力が衰えてしまった際に、後見人を選任できる制度です。後見人が本人の利益を考えながら代理として、契約や法律行為を行なったり、不利益な法律行為を取り消したり、本人の保護・支援をします。

法定後見人には、以下のことを依頼できます。

  • 財産管理
  • 身上監護
  • 介護保険契約
  • 相続手続き
  • 不動産の処分

本人の財産と権利を守るため、平成12年に介護保険制度と共に法定後見制度が設けられました。ただし、法定後見人は介護や医療行為の同意はできず、身元保証人にはなれません。あくまで、法定後見制度は本人の預貯金の管理や解約といった、財産を保護することを目的として設けられているものです。

法定後見制度の種類と類型

法定後見制度は、障害や認知症になってしまった人を保護するための制度です。そのため、本人の判断能力の度合いによって、後見人に与えられる権限や職務の内容が異なります。

法定後見制度は、以下の3つの類型から成り立ちます。

補助類型保佐類型後見類型
対象判断能力が不十分な人判断能力が著しく不十分な人判断能力が全くない人
申立てを行う人・本人
・配偶者
・四親等以内の親族
・検察官
・市町村長
・本人
・配偶者
・四親等以内の親族
・検察官
・市町村長
・本人
・配偶者
・四親等以内の親族
・検察官
・市町村長
後見人に与える権利
・相続の承認(借金を含む)
・家の新築・増築における同意
・財産管理の代理・取り消し
申立てによって与えられる権利・相続の承認(借金を含む)
・家の新築・増築における同意
・相続の承認(借金を含む)
・家の新築・増築における同意
・特定の法律行為に関する代理

制度適用後に本人が失う資格
・公務員
・会社の役員
・税理士
・医師
・公務員
・会社の役員
・税理士
・医師

類型によって内容が異なるものの、法定後見人にはさまざまな権利が付与されています。

法定後見制度と任意後見制度の違い

後見制度には、「法定後見」と「任意後見」があります。

  • 法定後見:本人の判断能力が低下してから、親族等が家庭裁判所に申し立てて後見人を選ぶ制度(裁判所が後見人を選ぶ)
  • 任意後見:判断能力がしっかりしているうちに、本人が後見人を選んでおける制度(本人が自由に選べる)

それぞれの後見人の権限についても大きな違いがあります。法定後見人には不要な契約や、本人に不利益な契約の取消権があり、死後の財産管理や事務処理についても一定の範囲内で認められています。しかし、任意後見人にはこれらの行為についての権限はありません。

法定後見人になれる人

法定後見人になるための最終的な判断は、家庭裁判所による審判によって行われます。

法定後見人には特別な資格が必要ないため、これまでは親族が後見人を担うことがありました。しかし、財産に関する相続トラブルが発生することから、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するケースが増えています。特に、本人の財産が多額であればあるほど、以下の専門家に後見人をお願いする傾向にあります。

  • 親族
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 社会福祉士

法定後見人になれない人

法定後見人は、以下に該当する場合はなれません。

  • 社会経験が足りず、財産管理が難しい未成年者
  • 過去に成年後見人となっているが、不祥事を起こして家庭裁判所から解任されている人
  • 自身の財産管理権を無くしていて破産している人
  • 本人に対して訴訟を起こしている人
  • 連絡先不明な人

法定後見制度は、判断能力が衰えてきた人の大切な財産を守るために設けられた制度です。過去に信頼できない行動を起こしてきた人や、職務遂行が期待できない人は、法定後見人に選ばれません。

法定後見制度を利用する際の流れ

法定後見制度を利用する場合の流れは、以下の通りです。

  1. 家庭裁判所で申立てを行う
  2. 家庭裁判所の調査が入って審判が行われる
  3. 審判の内容に合わせて後見事務が始まる

流れについて順番に解説します。

1. 家庭裁判所で申立てを行う

まず家庭裁判所に、法定後見制度の利用に関する申立てを行います。家庭裁判所によって必要書類は異なりますが、一般的には以下の書類が申立ての際に必要となります。

  • 申立書
  • 医師からの診断書
  • 本人の住民票
  • 本人の戸籍謄本
  • 登記されていないことの証明書
  • 成年後見人候補者の住民票

申立てには、収入印紙代や切手代などの費用がかかります。各市区町村にある家庭裁判所によって金額が異なります。事前に調べてから申立てを行うと安心です。

2. 家庭裁判所の調査が入って審判が行われる

申立てが完了すると、家庭裁判所による調査が入って、審判が行われるための準備を進めます。後見人が必要な状況かを判断するため、事情聴取や関係先への問い合わせが行われます。
本人の判断能力の有無を正しく判定してもらうためには、裁判所が選任する専門医の鑑定が必要です。最終的な審判は裁判官が行い、申立てを行った人だけでなく後見人にも審判内容が通知されます。

3. 審判の内容に合わせて後見事務が始まる

審判の内容に合わせて、家庭裁判所は法定後見人を選定します。選定後に『審判調書』が送付されます。

成年後見人が選任されると法務局に登記され、『登記事項証明書』が発行できるようになります。証明書があれば成年後見人は、本人に代わってさまざまな手続きを行うことが可能です。

また、後見人の報酬は家庭裁判所が審判した結果から算出されます。本人の財産から報酬が支払われますが、本人が亡くなった後は支払いが停止します。

法定後見制度にかかる費用

法定後見制度を活用して後見人を申立てると、以下の費用がかかります。

項目概要費用
印紙代申立て手数料の印紙代3,400円〜
郵便切手裁判所が申立人に審判書を送付する際に使用する切手代5,000円〜
鑑定費用本人の状態を医療機関へ確認する際にかかる費用
※鑑定が行われない場合は必要ない
〜10万円
医師の診断書法定後見制度申立てに必要な、診断書作成にかかる費用1,000円〜
本人・申立て人の戸籍謄本・住民票申立てに必要な書類を発行する際にかかる費用・戸籍謄本:450円/枚
・住民票:300円/枚
登記していないことを示す証明書本人が過去に、後見制度を利用していないことを証明する書類の発行手数料300円/枚
その他申立て時に必要となる、書類の発行手数料・不動産の登記事項全部証明書:600円/枚・固定資産評価証明書:300円/枚・残高証明書:通帳の写しでOK

法定後見制度が適用されると、後見人への報酬を毎月支払わなくてはいけません。後見人への報酬額は裁判所によって決まりますが、基準となる金額は以下の通りです。

  • 基本報酬額:月額2万円
  • 管理財産額が1,000〜5,000万円の場合:月額3〜4万円
  • 管理財産額が5,000万円を超える場合:月額5〜6万円

参考:東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす

本人の代わりに「遺産分割協議を行う」「不動産売却」などを行った場合、追加報酬が発生します。追加報酬は基本報酬額の半分程度となっているので、依頼する際には注意が必要です。

法定後見制度のメリット

法定後見制度を利用するメリットは、以下の通りです。

  • 後見人は本人の財産を動かせるようになる
  • 本人が不利益となる契約を取り消しできる
  • 親族の勝手な使い込みを制御できる

後見人は本人の財産を動かせるようになる

法定後見人になれば、本人の通帳やカードの管理をするようになります。本人の意思に関係なく、財産から入出金や振込作業ができるようになるため、生活資金の管理がスムーズです。

不動産の管理も、後見人の印鑑があれば売買契約や登記ができます。ただし、家庭裁判所の許可が必要になるケースがほとんどで、自由に資金を動かせるわけではないので注意しましょう。

本人が不利益となる契約を取り消しできる

本人が不利益となる契約があれば、法定後見人が代わりに解約できます。

※不利益となるもの:例)定期的に届く食品や新聞など(認知症を患った本人にとって、必要ないと思われるもの)

本人の判断能力が低下した状態では、契約の取り消しを主張するのは困難です。しかし、後見人に任せれば、本人の代わりに契約の取り消しができます。

親族による勝手な使い込みを制御できる

本人と親族が一緒に住んでいる場合、親族が預貯金を勝手に使い込んでいるケースがあります。しかし、法定後見人制度を活用すれば、後見人以外は預貯金の引き出しができなくなります。制度の利用で、お金の管理を徹底して行い、親族トラブルを未然に防げます。

法定後見制度のデメリット

法定後見制度を利用するデメリットは、以下の通りです。

  • 費用がかかる
  • 本人のためでしか財産を自由に使えない
  • 正当な理由がないと法定後見制度の取り下げはできない

費用がかかる

法定後見制度を活用すると、申立て時には印紙代や鑑定料などの初期費用がかかります。また、後見人への報酬としてランニングコスト(払い続ける費用)もかかるので注意が必要です。基本報酬だけでも年間約24万円かかり、管理する財産が多ければ多いほど高くなります。

報酬は本人の財産から支払われるため、利用する際には事前に家族や親族とでしっかりと話し合いをしておくことが大切です。

本人のためでしか財産を自由に使えない

法定後見人になれば、本人の代わりに財産の管理を任されます。しかし、なんでも自由に使えるわけではありません。例えば、株やFXなど個人的な投資や私利私欲の買い物には、本人の財産を利用できません。
後見人はあくまで本人の財産を守ることが仕事です。財産を危険に晒す行為は許可されていないため、もし後見人に立候補する場合は、その役割を理解しておくことが大切です。

正当な理由がないと法定後見制度の取り下げはできない

法定後見制度は、基本的には本人が亡くなるまで適用されます。途中で後見人の立候補者が現れても、正当な理由がない限りは途中で取り下げをすることはできません。

法定後見制度は、あくまで本人の財産を管理・保護することが目的の制度です。財産がしっかりと管理できている状態であれば、制度は適用され続けます。

法定後見制度を利用する際の注意点

法定後見制度を利用する際の注意点は、以下の通りです。

  • 法定後見制度の申立てが完了するまでに、時間がかかる
  • 法定後見制度の申立ての取り下げは難しい
  • 後見人候補者が必ず就任するとは限らない
  • 親族トラブルに発展する可能性がある

法定後見制度の申立てが完了するまでには時間がかかる

法定後見制度は申立ての準備に1〜2ヶ月、家庭裁判所が審判を終えるまでに2〜3ヶ月の期間を要します。全ての手続きが終わるまで、3〜6ヶ月近くかかるケースもあります。審判がすんなり通る保証はないため、余裕を持って準備を進めましょう。

法定後見制度の申立ての取り下げ

法定後見制度の申立てをすると、その後の取り下げは難しくなります。申立書を家庭裁判所に提出した時点で、正式な申請と判断されるためです。万が一、途中で取り下げをしたいとなった場合、家庭裁判所の許可が必要なので注意しましょう。

後見人候補者が必ず就任するとは限らない

法定後見制度の申立てをする際には、後見人の候補者を家庭裁判所に伝えなければいけません。ただし、最終的な後見人の選定は裁判所が行うため、必ずしも候補者が就任するとは限りません。能力の有無や、利害関係などから選出されるため、信頼できる後見人候補者を選ぶことが大切です。

親族トラブルに発展する可能性がある

親族の中から法定後見人が選任された場合、親族トラブルに発展する場合があります。法定後見人は財産の管理を行うことが主な役割ですが、後見人は本人の財産を自由に使えると勘違いをする親族がいるため、私的にその財産を流用してしまうケースがあります。

万が一、本人の財産を勝手に使用してしまうと、業務上横領となります。後見人は家庭裁判所が定めた公的な任務でもあるため、親族とは事前に話し合いをしておくことが大切です。

まとめ

法定後見制度とは、障害や認知症によって判断能力が劣った際に、財産管理や身上監護を行う法定後見人を選任できる制度です。後見人は本人の利益を考えながら契約や法律行為を代理で行えるだけでなく、本人の不利益な法律行為を取り消したりできるので、大切な財産を保護できます。ぜひ本記事を参考にこの制度の活用を検討してください。

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