2023年5月13日

意外と知られていない遺言書の「知っておきたい事」「注意点」について業界関係者が紹介

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 相続によるトラブルは年々増加しています。裁判所の司法統計によると2000年に8,899件だった遺産分割調停件数は2021年には13,447件も増加しました。日本は現在、超高齢社会の為、相続の件数が増加している事が原因の一つかと思いますが、相続のトラブルは「遺言書をきちんと作成すること」によって回避することが可能です。

そこで今回は、相続によるトラブルを回避していく為に重要な遺言書について、「遺言書とはどの様な物か」「なぜ遺言書は必要なのか」について説明します。また、「遺言書の書き方」や「遺言書作成時の注意点」についても詳しく解説している為、遺言や相続に関してお悩みの人はぜひ参考にしてください。

遺言書の定義と必要性とは?

遺言書は様式が法律によって厳密に決められています。遺言の内容を確実に実行する為には、法律に則って作成しなければなりません。

この項では「遺言書とはどのようなものか」「どんな時に遺言書が必要になるのか」について解説します。

遺言書の定義は?

遺言書とは、死亡後の財産について、「誰にどの様に分配するか」を書き記したものです。遺言書に似た言葉に遺書がありますが、両者は全く別の物です。遺書は自分の気持ちを伝える手紙で、法律上の効力はありません。

一方、遺言書は本人が亡くなった後に効力を発揮する為、実際に遺言の執行が必要となる時には、本人の意思を確認することは不可能です。従って偽造等を防ぐ為には、法律で規定された様式に則って書かなければなりません。

遺言書に書く内容は自由ですが、法的な効力を有する事項は民法その他の法律によって、主に以下3つの事項に限られています。

  • 財産の処分に関する事項
  • 身分に関する事項
  • 遺言執行に関する事項

「財産の処分に関する事項」とは、遺産相続の割合や分割の方法、相続人以外への財産譲渡等が代表的な項目内容です。「身分に関する事項」は、婚姻関係にないパートナーとの間にできた子を死後に認知したり、残される子が未成年場合の後見人指定等が含まれます。

「遺言執行に関する事項」は、遺言書の内容に沿って財産が分配されるよう手続きを行う「遺言執行者」の指定について項目です。この項目ついては、「遺言書作成時の注意点を紹介」の中で詳しく解説します。

法的な効力を有するのは、以上の様な事項に限られますが、それ以外の内容を書いてはいけないわけではありません。例えば、遺産分割の内容に関する理由を「付言事項」として記載する事は、一般的です。

遺言書が必要な場合1:財産の分配方法を指定したい

相続関係が複雑な場合や遺産の中に不動産がある場合は、遺産協議で相続人同士がトラブルとなる可能性があります。予め遺言者(被相続人)が誰に何を相続するかを決めておく事で、トラブルに陥るリスクは低くなるでしょう。

遺言書が必要な場合2:法定相続人以外に財産を譲渡したい

遺言が無い場合、財産は法律で定められたルールに基づき、法定相続人に分配されます。

法定相続人とは、配偶者と子供や孫等の直系卑属(第一順位)、親・祖父母等の直系尊属(第二順位)、兄弟姉妹と甥姪(第三順位)を指します。

例えば、息子の配偶者に介護をしてもらった為、財産を残したいと思っても、法律上は相続の権利がありません。このような場合、遺言書に息子の配偶者に財産を残したい旨を記載する事によって、息子の配偶者に財産を残せます。

遺言書が必要な場合3:法定相続人がいない・行方が分からない

法定相続人がいない場合、様々な清算手続きが行われた後に残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。それを望まないのであれば、被相続人は遺言書を残しておいた方が良いでしょう。遺産分割協議は相続人全員で行う必要がある為、行方不明者がいると協議できないからです。
そういったケースでは、裁判所に対して失踪宣告や不在者財産管理人の選任の申し立て等の複雑な手続きが必要になります。遺言書があれば遺産分割協議が必要ない為、スムーズに遺産が相続されます。

遺言書の種類と特徴を紹介

遺言書は「特別方式遺言」と「普通方式遺言」の2つに大別されます。特別方式遺言は、死の危機に瀕している時や、乗っている船が遭難しかけている時等の特殊な状況下で作成する遺言です。一方、普通方式遺言は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つに分かれます。3種類の普通方式遺言について、特徴やメリット・デメリットを解説します。

1:自筆証書遺言

自筆証書遺言は、文字通り遺言者が自筆(手書き)で作成した遺言書です。民法968条で「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められています。自筆証書遺言は手軽に作成出来ますが、紛失・偽造等の恐れや、本人の死後誰にも発見されない可能性も考慮しなければなりません。

また、遺言者の死亡後に遺言書が偽造される事を防止する為に、検認という手続きが必要です。検認には相続人に遺言書の存在を知らせる目的もあります。

遺言書の保管者や発見した相続人は、速やかに裁判所に検認の申し立てをしなければなりません。もし遺言書に封印があった場合、勝手に開封すると5万円以下の過料(罰金)が課せられる可能性がある為、注意しましょう。

2:公正証書遺言

公正証書遺言は、2人の証人の立会いのもと口頭で話した遺言の内容を公証人に文書化してもらう遺言です。専門家に作成してもらう為、書類上の不備で無効になるリスクや、トラブルになる可能性が低くなります。公証役場で保管される為、紛失や偽造がなくなり、検認も必要ありません。

手数料は公証人手数料令第9条別表によって定められており、相続する遺産額が増えるに従って加算されます。手数料のおよその金額は2万円~5万円程度です。

3:秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言書の内容を誰にも知られずに保管したい場合に利用する形式です。
遺言者が署名・捺印のうえで封をし、公証人と2人以上の証人の立ち会いの下で、その存在を
証明してもらいます。

ただし、公証人や証人はその内容までは確認しない為、書類に不備があった場合は無効になる可能性があります。また、公証役場で保管してくれるわけではない為、遺言書の作成者本人が保管・管理するため、裁判所での検認も必要です。

秘密証書遺言は、デメリットが大きい為、あまり利用されていません。公正証書遺言書が令和4年(2022年)に111,977件作成されているのに対し、秘密証書遺言書は100件程度に留まっています。

各遺言書の書き方を紹介

遺言書は種類によって書き方は大きく異なります。そこで、特別方式遺言と3種類の普通方式遺言の書き方について解説します。

特別方式遺言の書き方

 特別方式遺言を作成する際には、遺言者本人が自筆で書き、署名と日付を必ず入れ、「特別方式遺言」と明記する必要があります。また、死後に公開する場合は信頼できる第三者に預け、遺言者が亡くなる前に内容を確認しておく事が重要です。これらの手続きを遵守する事で、遺言者の意志を正確に反映した遺言書を作成する事ができます。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言を書く際には、民法968条に定められた要件を守らなければ無効となる可能性があります。必要な要件は以下の3つです。

●遺言者本人が、遺言書の全文・日付・氏名を自書し、押印しなければならない
●財産目録に関しては手書きでなくてもかまわないが、各頁に署名押印が必要
●目録を含む遺言書の訂正が、正しい方法でなされている

遺言書は手書きでなければなりません。代筆も無効です。ただし財産目録に関しては、パソコンで作成したり、預金通帳のコピーを添付してもかまいません。押印は実印である必要はありませんが、遺言書の信頼性を高めるために実印をおすすめします。

遺言書を書く筆記具・用紙・封筒についての決まりはありません。しかし、現実的には鉛筆で書いたり封をしていなかったりすると、偽造等の恐れがある為、避けた方が良いでしょう。

訂正する際は訂正箇所に取り消し線を引き、そのそばに新しい文言を書いて押印します。さらに、余白にどこの部分をどの様に変更したかを付記し、そこにも署名押印しなければなりません。

公正証書遺言の書き方

公正証書遺言は、遺言者の話す内容を基に公証人がパソコンで作成します。内容を確認して、間違いがなければ本人が署名押印して完成です。作成時には二人の証人の立会いが必要です。あらかじめ遺言の内容を書面で整理しておくと、スムーズに作成する事が出来ます。

また、証人には要件があり、未成年者や相続人は証人になれません。公証役場でも紹介してくれますが、一人当たり1万円前後の謝礼が必要になります。

秘密証書遺言の書き方

秘密証書遺言の書き方は、おおむね自筆証書遺言と同じですが、2点異なる点があります。

一つは手書きでなくても構わない点です。もう一点は、日付を記載しなかったとしても、公証人が封筒に日付を記載する為、無効になる事はありません。秘密証書遺言の手数料は、財産額に関わらず定額で1万1,000円です。

しかし、遺言書の内容を公証人が確認するわけではない為、無効になるケースもあります。また、自分で保管先を決めたり、相続開始時には検認が必要だったり等のデメリットが多い為、あまりおすすめできません。

遺言書作成時の注意点を紹介

遺言書を作成する際の注意点を5つ紹介します。遺言書は、最後の意思表示としてとても重要な物である為、正確且つ適切に作成する事が重要になります。

1:必要な要件・表現方法を守る

自筆証書遺言を作成する場合は、特に書き方に注意が必要です。遺言書の形式は、偽造や改ざんを防ぐ為に法律で厳密に決められています。その為、法律に違反していると無効になるケースがあります。
例えば、日付を“令和〇〇年三月吉日”と書くと無効になります。“三月吉日”という表現では日付が特定できないからです。

また、訂正が正しい方法に沿っていなかった場合は、元の文言が有効になります。作成中に訂正が必要になった場合は、新たに書き直す方が賢明です。

2:相続人を明確化する

自分が亡くなった場合、誰が相続人になるのかを明確化しなければなりません。死亡して相続が発生するまでは、相続人ではなく「推定相続人」が正式な呼称です。もし推定相続人に漏れがあった場合等は、遺言書が無効になるケースもあります。

3:特別受益と遺留分を考慮する

「特別受益」とは、生前贈与等によって被相続人から生前に受けた利益の事を指します。特別受益を受けた場合、相続開始の際にその分を差し引いて相続分が決定されます。

「遺留分」とは、遺言の定めによらず相続人が最低限受け取る事の出来る一定割合の財産です。その為、配偶者や子供がいるのに「全額を慈善団体に寄付する」と遺言書に記載しても無効になります。

遺留分は誰が法定相続人になるかによって変動します。例えば、配偶者のみが相続人の場合の遺留分は1/2、配偶者と子供が相続人の場合は配偶者1/4、子供が1/4です。

遺留分を侵害された相続人は、その分の財産を受けた人に対して遺留分侵害額を請求する事が出来ます。

4:遺言書の更新・保管に留意する

遺言書を作成して年月が経過すると、財産の内容や相続人が変動する場合があります。住居を建て替えたり、銀行口座を解約した場合は、遺言書の書き換えをしなければならないケースもあります。

また、遺産の分配方法について考えが変わる可能性があります。一度作成して終わりではなく定期的な見直しを検討しましょう。

自筆証書遺言の場合は、保管方法も重要です。せっかく作成しても死後発見されない事や、偽造されたり、紛失してしまう可能性があります。自筆証書遺言は費用がかからずいつでも書き直せるのがメリットですが、保管方法が難しいという問題があります。

この点を解消する方法として、「自筆証書遺言書保管制度」の利用をおすすめします。自筆証書遺言書保管制度は、法務局で遺言書を保管する制度です。遺言者が亡くなった後に相続人へ遺言書の存在が通知され、検認手続きも不要です。費用は3,900円です。

5:遺言執行者を指定する

「遺言執行者」とは、財産が遺言書通りに分配される様に必要な手続きをする人です。財産を調査する事や、預貯金口座の解約、相続登記を行う権限があります。

遺言執行者が必要なケースは、推定相続人を廃除する場合や、生前に認知出来なかった子を認知する場合等です。
「推定相続人の廃除」とは、相続する権利を有する人間から虐待を受けている場合等にその人間の相続権を剝奪する事です。婚外子がいても生前は家族に秘密にしていて死後に遺言で認知する場合、その手続きは遺言執行者が行います。

遺言書について学ぶ事は遺族の為に大切な事

遺言書に関する知識や注意点について学ぶ事は、遺志を正確に伝える事が出来る為、残された遺族への負担を軽減する重要な事です。

また、遺言書を作成する事は、人生における大事な決断の一つです。その為、正しい知識を持ち遺言書作成に取り組む事で、遺族の未来に安心感をもたらす事ができるでしょう。

遺言書を作成していく中で専門家の協力が必要な場合は、一般社団法人終活協議会でも遺言書の作成をはじめ、終活に関する様々な事を一括してお任せ可能なサービスを用意しています。終活協議会では、司法書士・弁護士が在籍しているので公正証書遺言の作成もできます。また、公正証書遺言の書き換えや再作成の手数料を負担してくれる点もありがたいです。詳しいことが聞きたい方は専門のスタッフが、サービスについて丁寧にご説明しますので、お電話で気軽にお問合せください。

終活を本格的に進めて行くと遺言書の作成だけでなく、終活の他にもやらなければいけない事が次々と出てくる為、疲弊してしまう恐れがあります。

老後の時間に余裕を持ち、穏やかに過ごして行きたい方には終活サービスのご利用も検討してみてはいかがでしょうか。

一般社団法人終活協議会の終活サービスについて

監修

落合康人
落合康人所属:東京司法書士会 一般社団法人 終活協議会理事 
1997年 東洋大学法学部卒業
大学在学中から司法書士試験の勉強をしつつ、1999年株式会社サイゼリヤに入社
7年間勤務した後、再度司法書士を目指すため2006年退社
2007年 司法書士試験合格
2008年 司法書士登録
試験合格後は、都内の司法書士事務所や法律事務所にて勤務
2021年 「落合司法書士事務所」開設
2021年 一般社団法人終活協議会理事就任

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